米空軍組織とパッチの関係について    


本題に入る前に、前提としていくつかの事柄を解説しておきます

実戦での出撃時


米空軍にかかわらず、最前線で敵に捕らえられ、捕虜となった兵士は、
必ず尋問を受け、敵にとって有用な情報を聞き出されます。
特に航空機搭乗員は高度の機密に関与している場合が多いため、
敵にとっては非常に重要な情報源となりえますので、
秘匿性を重視し、衣服の徽章類さえも実戦出撃時には無用とされます。

米海軍との違い


いきなり脱線してしまいますが、米海軍との大きな違いを解説しておきます。

戦闘機等の戦術機の場合、空軍の搭乗員と海軍の飛行士では、
装備品(パラシュートハーネス、サバイバルベスト、ライフプリザーバー等)
の違いから・・・フライトジャケットを着てフライトすることが、

空軍:可能
海軍:不可能

という大きな違いが有ります。
その為、海軍ではジャケットにパッチを取り付ける際の規定が無いために
各々が自由にパッチを取り付けています。
ただ、この様なジャケットの着用は空母艦内、陸上基地内に限られます。

空軍の組織

飛行機を運用する組織については、飛行機の発達や用兵構想、世界情勢等と共に改編を繰り返して来ました。
あんまり細かい話は省きますが、やはり前提としてさらっと述べておきます。

空軍司令部

軍団(TAC SAC MAC 等) 

航空団(ウィング:WING)

飛行隊(スコードロン)
かなり単純化した見方ですが、概ねこの様な構造になっています。
上図に含まれない、航空軍(陸軍の師団に相当、1AF〜24AF)の存在やNORAD、
特殊部隊、基地所属飛行隊の指揮系統は、ややこしくなるので割愛させて頂きます。
創設当初〜50年代初頭
(朝鮮戦争)
2次大戦の終結とともに始まった東西冷戦
(実は同じ連合国ながら、米ソは戦中からにらみ合っていたのだが・・)
戦略爆撃機による核爆弾の使用、及びその脅威に対抗する防空体制の強化。
ジェット機の実用化、及び朝鮮戦争でのジェット機同士の空中戦。
戦術空軍
(戦術空軍司令部)
TAC (Tactical Air Command)
戦略空軍
(戦略空軍司令部)
SAC (Strategic Air Command)
軍事航空輸送部 MATS (Military Air Transport Service)
防空軍団
(防空司令部)
ADC (Air Defense Command)
極東空軍 FEAF (Far East Air Forces)
欧州空軍 USAFE (United States Air Forces in Europe)
50年代〜70年代 朝鮮戦争停戦(あくまでも停戦であり理屈の上では現在も戦争中)後、
東西冷戦は宇宙開発競争もからんでエスカレートし、
超音速機、戦術核兵器の開発、戦略核兵器配備も進む。

数次における中東戦争が勃発。
米国がベトナム紛争に介入、それまでの用兵思想では戦えず、
戦争は長期化、泥沼と化す。

大陸間弾道弾(ICBM,SLBM)の実用化により、
戦略爆撃機の長距離侵攻の必要性が薄れ始める。
対爆撃機重視の防空体制も陳腐化。
戦術空軍
(戦術空軍司令部)
TAC (Tactical Air Command)

F−100に始まるセンチュリーシリーズの実用化とともに
FDS FIS FBS 等の区分けを廃止、
順次、FISはADCに移管し、
その他の航空団、飛行隊は、それぞれ、
TFW(戦術戦闘航空団) TFS(戦術戦闘飛行隊)
へと改編した。
戦略空軍
(戦略空軍司令部)
SAC (Strategic Air Command)
軍事航空輸送部

軍事航空輸送軍団
MATS (Military Air Transport Service)

MAC (Military Airlift Command)
1966年、組織改編
防空軍団

航空宇宙防空軍団

防空戦術航空軍団
ADC (Air Defense Command)

ADC (Aerospace Defense Command)
1968年、組織改編

ADCOM (Aerospace Defense Command)
1975年、略称変更

ADTAC (Air Defense Tactical Air Command)
1975年、ADCは、戦略爆撃機の脅威が薄れ始めた
70年代後半から、順次その任務を州空軍、予備役に
引継いで縮小し、1979年にはTAC指揮下に入った。
極東空軍

太平洋空軍
FEAF (Far East Air Forces)

PACAF (Pacific Air Forces)
1957年、組織改編
欧州空軍 USAFE (United States Air Forces in Europe)
80年代〜現在 ソ連崩壊とともに冷戦構造も無くなり、軍事予算も削減され、
軍縮へ向けての大幅な改変が始まる。
旧式機材の廃止も一気に進み、センチュリーシリーズは当然としても、
A−7、F−4、F−111も全て退役した。世界最速の実用機SR−71も退役。

空軍の3本柱としてのTAC,SAC,MAC も統廃合により大幅に改編された。
戦術空軍

航空戦闘軍団
TAC (Tactical Air Command)

1992年解体

ACC (Air Combat Command)
SACから爆撃機、給油機、AWACS等を吸収し
航空戦闘軍団(ACC)へと生まれ変わる。
戦略空軍

消滅
SAC (Strategic Air Command)

1992年解体
その装備は、ACC,AMC等に引き継いだ。
軍事航空輸送軍団

航空機動軍団
MAC (Military Airlift Command)

1992年解体

AMC (Air Mobility Command)
SACから給油機等を吸収し
航空機動軍団(AMC)へと生まれ変わる。
航空宇宙防空軍団

消滅
ADTAC (Air Defense Tactical Air Command)

1985年解体
(1AF・第1航空軍として改編)
太平洋空軍 PACAF (Pacific Air Forces)

名称は変わらないが、SAC、MACから
現地派遣部隊を引き継ぎ、大幅に改編されている。
欧州空軍 USAFE (United States Air Forces in Europe)

冷戦終結とともにドイツをはじめ、各国駐留部隊は
順次本国に引き揚げ、その戦力は大幅に縮小された。
州空軍 ANG (Air National Guard)

米国は連邦政府と州政府それぞれに軍隊を有しており、
各州の空軍にあたる組織が州空軍である。
予算も各州が負担しており、各州の指揮下にある。
運用面では、連邦の各軍団と連携しており、
必要に応じて海外へ派遣される事もある。

ADTAC解体後は、北米の防空飛行隊はANGの飛行隊だけになったし、
SAC解体後のB-1爆撃機の行き先も全てANGだった。
現実的には、予備役としての役割を担っていると見るのが妥当であろう。

機材に関しては、おおむね連邦軍で使用され旧式化したものが
回ってくるというのが現実。パイロットも本職を別に持つ、
いわゆる「パートタイマー」が大半を占める。


戦術空軍・部隊編成表

一番人気のある TAC時代の部隊編成を、わかる範囲でまとめてみました。
まだ編集途中ですが、興味のある方はご覧下さい。

編成表を見る     

部隊編成表(現在)

編成表を見る     

空軍のパッチと、取り付け法

空軍には、発足当初〜60年代あたりまではその取り付け位置等に、
特に規則性がみられませんが、
70年代に入ると(多分ベトナムでの戦訓が影響していると思われます)
ネームの位置やスコードロンパッチの位置などに統一性が見られるようになり、
その取り付け方も、それまでの縫い付けからベルクロによる一時的な貼り付けに
変わってきています。

発足当初〜60年代

左胸にネーム、士官の場合は両肩に階級章、下士官以下の場合は両袖に階級章。
右胸にスコードロン、袖にAF章、軍団章、航空団章、機体パッチ等。
但し、縫い付け位置に関しては例外は多数有りマス。
パッチは4インチ以上の大型のものが使用されていました。
ネーム WW2タイプ 創設当初は、機体も装備も陸軍時代から継続して使用されていたので、
A-2等に見られる細い革製の物が多い。
布テープ・白 50年代から、
白い布テープに黒字ステンシル印刷、
又は黒糸刺繍のネームテープが使われ始める
布テープ・青 B−15D登場頃?
青い布テープに白糸刺繍が使われ始める。
ウイング章、階級章も青生地。
革ネームタブ ウィング章と一体化し、ウィングの下に階級、名前を記入。
直に縫い付けた物もあるが、取り外しを前提に、
ビニールホルダーに差し入れる方法が一般化した。
その後、ベルクロ取り付けに変わる。
階級章 革・銀箔押し 黒革に銀箔押し
布生地に刺繍 青生地に刺繍(青のネームテープと同時に使用)
ビニールパウチ 正装ユニフォーム用と同じ物をビニールでパウチした物

70年代〜80年代

実戦にて出撃する際には、全てのパッチ、階級章、ネームタブは取り外します。
(海軍は、何も付いていないプレーンな状態の衣服を用意している搭乗員もいます)
その為、各パッチ類はベルクロ付けが基本になりました。パッチのサイズは年を追うごとに小型化しています。
今まで確認出来た実物の中には、B−15D.MODにもベルクロ仕様の物がありましたが、
一般的には、MA-1,L-2Bの後期モデルから現在のCWU-36P,CWU-45Pが対象になります。
いつ頃規定化されたのかわかりませんが、右胸に軍団章、左肩に航空団、右肩に飛行隊
というのが決められたようです。
もちろん例外も有り、本国内の防空軍団や訓練飛行隊、その他の支援部隊は
直接縫い付けで、結構派手だったりします。
ネーム 布テープ・青 青い布テープに白糸刺繍(ウイング章、階級章も青生地)
革ネームタブ ウィング章と一体化し、ウィングの下に階級、名前を記入。
取り外しを前提に、ベルクロ取り付け。
刺繍製ネームタブ ウィング章と一体化し、ウィングの下に階級、名前を記入。
通常スコードロンカラーで作られる、ベルクロ取り付け。
階級章 青布生地に刺繍 青色の布生地に白又は黄色刺繍(青のネームテープと同時に使用)
セージ生地に刺繍 セージ色の布生地に白又は黄色刺繍、ウィングマークもセージ色生地
ビニールパウチ 正装ユニフォーム用と同じ物をビニールでパウチした物

90年代〜現在

右胸に軍団章、左肩に航空団、右肩に飛行隊という規定が定着。
1991年から始まった組織改革により、パッチも新組織の物に変更になりました。
パッチはほとんどが3インチサイズの小型のもの。ベルクロ付けが基本。
CWU-36P,CWU-45Pが対象になります。
ネーム 革ネームタブ ウィング章と一体化し、ウィングの下に階級、名前を記入。
取り外しを前提に、ベルクロ取り付け。
布テープ・OD M−65、BDU等に見られるもの
OD色布テープに青糸刺繍文字。
刺繍製ネームタブ ウィング章と一体化し、ウィングの下に階級、名前を記入。
通常スコードロンカラーで作られるが、最近では使用機種の
図柄を入れる等、凝ったデザインの物も多くなった。
現在ではこのタイプが主流になっている。ベルクロ取り付け。
階級章 OD布生地に刺繍 OD色の布生地に青糸刺繍、ウィングマークも同様
現在はこれが主流。ベルクロ取り付け。

その他

パッチやウィングマークと、階級章のマッチングには気をつけてください。
例えば、大佐クラスは航空団指令以上の地位にありますので、飛行隊のパッチは付けません。
ウィングマークにもランクがあります。少尉がマスターパイロットのウィングマークというのはヤバイです。
また、飛行時間を示すスキルパッチにも同様のことが言えます。
余談になりますが、フライトジャケットやフライトスーツはユニフォームですから、
勤務時間外に基地の外での着用等は許されていません。
実物同様に仕立てたジャケットを着て米軍関連施設に近づくと、
セキュリティーに拘束される等のトラブルも考えられますのでご注意下さい。(ま、念のため)